君達が合格できたのは、「父親の経済力」。そして、「母親の狂気」。(1巻冒頭)
*注意:ネタばれはしていないつもりですが、それなりに内容が出てきます
ので、まったく知らずにこれから読みたい!という方は上のリンクからどうぞ。
先にまとめを。
★『二月の勝者』まとめ★
君達が合格できたのは、「父親の経済力」。そして、「母親の狂気」。(1巻冒頭)
・リアルで面白い!
・中学受験を「塾産業」「受験生(小学校6年生)」「親」からうまく描いている
・中学受験を取り巻く各種状況がかなり正確に分かりやすくまとめられている
・中学受験の明暗、その他、全方位的に描かれている:肯定でも否定でもない
そもそも『二月の勝者』って何?
『二月の勝者』(高瀬志帆(たかせしほ)、小学館)は中学受験を
テーマにした人気漫画です。
2021年5月時点で11巻まで出ています。まだ完結していません。
『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)に2018年1号から連載されてい
ますので、連載3年ちょっとで、2021年10月からはドラマ化も決定しています
(日本テレビ系土曜ドラマ【二月の勝者-絶対合格の教室-】)。
「父親の経済力・母親の狂気」
君達が合格できたのは、「父親の経済力」。そして、「母親の狂気」。(黒木蔵人)
この言葉から物語は始まります。1巻の冒頭に出てきます。
主人公は、御三家に最も多くの合格者を出す(サピックスをモデルにした)
中学受験塾のトップ「フェニックス」の最上位クラスの講師から、中堅塾
(桜花ゼミナール)に校長として転職してきた黒木蔵人(くろきくろうど)です。
ヒロイン(ちょっと違いますが、女性主人公であるのは間違いないです)は
新人塾講師の佐倉麻衣(さくらまい)です。
中学受験のプロである黒木と、新人の佐倉麻衣が狂言回しとなり、その他の
塾講師や、もちろん塾に通う小学6年生たち受験生が中学受験に挑むという
形で話が展開していきます。
なお、桜花ゼミナールに通う6年生たちの苗字は、基本的に戦国武将から
きていますので、さりげなく日本史の勉強にもなりますね。島津君〔薩摩)、
前田さん(加賀)、柴田さん(柴田勝家・信長の家臣)、上杉君(越後)、
武田君(甲斐)などです。
物語は、フェニックスに在籍していた頃の、黒木先生の
「君たちが合格できたのは「父親の経済力と母親の狂気」」
という言葉から始まります。
黒木蔵人には秘密があり、それは基本的にサスペンド(宙づり状態)
のまま話が進みます(だんだんと明らかになってきます)。
発言や、秘密の存在から分かるように、黒木蔵人は、いわゆる
熱血塾講師とは少し違います。
超一流のプロ塾講師ではありますが、中学受験をビジネスと割り切り、
いかに「課金」できるかといったダーク(?)な側面も見せながら、
話は展開していきます。
親を「ATM」、子供を「鵜飼の鵜(うかいのう)」、塾講師を「鵜飼」
と表現するなどなかなかリアルに塾産業が描かれます。
かといって、中学受験反対のマンガというわけでは全くなく、むしろ、
そういったリアルさの中に、具体的な受験勉強が展開していきます。
なお、女性陣の好きな恋愛話はほとんど出てきません。悪しからず。
これ以上の詳細はマンガを読んでみるのが良いでしょう。
2021年5月時点では、まだ連載中なので、ラストがどうなるかは分かりませ
んが、今から楽しみです。
『二月の勝者』は中学受験に使えるか?
使えます。
理由は、『二月の勝者』は、展開、内容が実に地に足が付いており、
おそらく、編集者やブレーンで入っている専門家がいるとしたら、
かなり緻密に中学受験について調べているものと思われます。
ですので、話がとてもリアルです。
中学受験の経験者や現在やっている人であれば
「そうだよな~~」
という話のオンパレードです。
変に大げさにしていたり、またあまりにもはしょっていたりもせず、
とても現実的です。
以下でいくつか具体的な例を挙げておきます。
中学受験の偏差値について
出典:『二月の勝者』2巻より
「偏差値50」と一口に言っても、中学受験と高校受験では全く違いますし、
同じ中学受験でも「模擬試験」によって全然違います。
サピックスの偏差値50=四谷大塚の偏差値55=首都圏摸試の偏差値60
こんな感じでしょうか。
偏差値は、試験の得点が受験者全体の中でどれだけ高いかを示す値です。
平均点50点の試験で自分の得点が50点なら、偏差値50です。
偏差値40や偏差値60は、それぞれ平均点よりも低い、高いという事を
示しますが、受験者全体の得点分布により細部は異なります。
繰り返しになりますが、偏差値とは、その試験で自分がどの程度の位置
にいるかを示すものです。
そうすると賢い小学生なら気づくかと思いますが、
★誰が同じ試験を受けているかで偏差値はかなり変わります★
以下の二点を知っておくといいでしょう。
1 (高校受験より)中学受験の偏差値は低く出る!(中受偏差値50→高校受験偏差値60以上)
2 塾によって偏差値が全然違う(高く出る順:首都圏摸試>日能研・四谷大塚>サピックス)
*結論:一口に【偏差値】と言っても内容・詳細が分からないと判断できない
出典:『二月の勝者』2巻より
この辺りの事も、『二月の勝者』では分かりやすく書かれています。
中学受験をする子ども(小学校6年生)のメンタル
中学受験をする子ども(小学校6年生)のメンタルについては、全体を通して、
色々なパターンの子が描かれますが、これもかなりリアルだと思います。
●バカ男子!(勉強ができる出来ないとはイコールではありません)
●やりたい事を我慢して勉強している(しない)子供
●「転塾」を悩む子供
●学校には不登校だけど、塾には居場所がある子供
●家庭環境に難がある子供
●双子で勉強のできるできないに差がある子
etc.
色々なパターンの子がそれぞれのキャラを活かしてうまく描かれています。
中学受験をさせる「親」
黒木先生や佐倉先生などの塾講師、柴田まるみさんや島津順くんなどの
受験生、それに加えて、彼・彼女らの「親」(「中学受験生の親」)も
色々な類型がうまく描かれています。
●見栄・ブランドで中学を選ぶ母親
●金銭面で通塾に消極的な父親
●とにかく狂気的になる母親
●最難関合格にこだわり、児童虐待的な父親
どちらかというと、親の方が「中学受験狂騒曲」的ですよね?
心当たりがある方もいるのでは?
各種データや勉強法
中学受験にまつわる、色々な最新データが出てきますが、この
辺りもとても正確で、ち密だと思います。
また、当然、成績や偏差値の上下、勉強法といったことが描かれ
ますが、これも実にリアルです。
例えば、
●6年生の親が塾に落とすお金は年間平均150万円(1巻)
(150万円~200万円の詳細な内訳も2巻に出てきます)
●「基礎」を徹底的に固めれば偏差値58(渋谷大崎:四谷大塚)まで行く
●最終目的地としての大学にいたる「特急列車」として中学受験(2巻)
『二月の勝者』名言集
中学受験を知っている人なら誰しも「うんうん」と思う「名言」が多数出てきます。
『二月の勝者』名言集:1~3巻
君達が合格できたのは、「父親の経済力」。そして、「母親の狂気」。(黒木先生、1巻)
「子供は裏切ります。言う事を真に受けてはいけません」(黒木先生、3巻)
「お子さんにはどんな大人になってほしいですか?」(桂先生、3巻)
「親御さんは表向き「努力」や「頑張り」を評価してほしいと言うくせに、
いざ明確な「数字」を出すと黙ります」(黒木先生、3巻)
「偏差値55までは確かに少しずつの高低差で続く坂道です。しかし…
実は、偏差値55から60の間は言うなれば、断絶した崖道」(黒木先生、3巻)
「入学試験のテスト問題は、実は七月~八月に作られることが多い」(黒木先生、3巻)
「夏期講習は、学力をあげる「最後」のチャンス。夏を逃したらもう二度と挽回
できる機会はありません」(黒木先生、3巻)
「(基礎問題を)本当の意味でしっかりとこなせば、誰でも「偏差値58」
までは上がります‼」(黒木先生、3巻)
「とにかく基礎を固めなければ応用に手を出しても無意味です」(黒木先生、3巻)
『二月の勝者』名言集:4~6巻
「佐倉先生、当塾では残念ながら…「道徳」という科目は教えておりません」(黒木先生、4巻)
「国語こそ「公式」があります。キモは、「本文に書かれてること以外の単語を使わない」
記述の答えは問題文の中にすべて入っていると言ってもいい」(黒木先生、4巻)
「あの頃は、ただ元気でいてくれるだけでよかった…!なのに私達はいつから、
「もっと」と言い出したのだろう…」(島津順の母、4巻)
「たとえ順が…どこにも受からなかったとしても、順は順です…!」(島津順の母、4巻)
「高校受験?大っ嫌いです。だって同じ学力の子が並んでたら、より「先生に
好かれる生徒」の方が有利なんですよ?」(黒木先生、4巻)
「かたや「中学受験」「本番のテストで点数をクリアさえすれば合格できる」明解で
きもちいいですね。私は中学受験が大好きです」(黒木先生、4巻)
「夏休み明けの模試で第一志望との偏差値の乖離が15ポイント以上なら、
その時点でその学校を諦めてください」(黒木先生、5巻)
「「ジャイアント・キリング」を成し得る可能性、それは、「自分の頭で
考えているか」」(黒木先生、6巻)
「「情報」も「塾」にお金を払って買うものです」(黒木先生、6巻)
『二月の勝者』名言集:7~9巻
「小学生女子は人間関係で簡単に成績が落ちます」「その逆も然り」(黒木先生、7巻)
「中学受験での「途中脱落」は…受験生本人よりも、親のほうが先に音を上げる」(黒木先生、7巻)
(JG・女子学院に関して)「ママ、「行けるといいね」じゃなくて、「行く!」なんだって!」(直江樹理、7巻)
「2月1日の本番その日まで、学力は伸びます…!!」(黒木先生、7巻)
「学校に通うのは自分じゃなく子ども」(黒木先生、7巻)
「高校生の大学受験とは根本的に違うので、周りを気にせずただがむしゃらに勉強
したほうがいいというわけではありません。」(黒木先生、8巻)
「「説得」というものは相手に聞く準備がなければただの「説教」です。」(黒木先生、8巻)
「夏、とことん頑張った奴は秋以降めっちゃ伸びる」(橘先生、8巻)
「佐倉ちゃん。あなたのいいところは、生徒の気持ちに寄り添えるところなんだけど、
同じテンションで親御さんの気持ちも考えてほしいかな」(桂先生、8巻)
「みんな我が子のために必死なのよ」(桂先生、8巻)
「決して解き方を暗記してはいけません。一問一問脳みそが汗をかくような頭の使い方をすること」(黒木先生、8巻)
「解法丸暗記して解けるような問題難関校が出すかよ」(島津順、8巻)
「18歳の受験と12歳の受験は違う!」(黒木先生、8巻)
「そもそもその気にさせたのはあなた方ですよね?」(黒木先生、9巻)
「もしその子が自分の意思で何かを決めることがあったら、その本人の
決めたことが一番じゃねえかな」(桜花ゼミナール社長、9巻)
「だってそうだろ?子どもの人生はその子のもんだ、親のもんでも俺達のでもない」(桜花ゼミナール社長、9巻)
「私の弱点―それは、「想像力」と「共感力」の無さ。」(黒木先生、9巻)
「試験問題は学校からのラブレターです」(黒木先生、9巻)
「どんなに温厚で冷静な方でも必ず、親御さんのメンタルに3回のクライシスが来ます!」(黒木先生、9巻)
『二月の勝者』名言集10~11巻
「「女優」になってください」(黒木先生、10巻)
「中学受験、ソシャゲよりこえええええ!!!!」(武田勇人の父、10巻)
「生徒は「う」です。…そして我々塾講師は「鵜飼い」です。」(黒木先生、10巻)
「中学受験って、沼!!!!」(山本佳苗の母、10巻)
「基礎を勤勉にコツコツ積み重ねた生徒が、その基礎を応用する感覚を
つかんでから急激な伸びを見せるからです」(黒木先生、10巻)
「あきらめずに続けてこれた者だけにやってくる、「点と線が繋がる」瞬間!」(黒木先生、10巻)
「今、この時期こそ、「待つ」ことが「親の仕事」ではないでしょうか」(黒木先生、10巻)
「「中学受験塾講師」として断言します。「待つ」ことこそがこの時期の親の一番大事な仕事だ、と。」(黒木先生、10巻)
「まるみは、自分の意見を持てるようになったんだよ、それをちゃんと主張できるように
なったんだよ!これって「成長」だよ!」(柴田まるみの姉・さとみ、10巻)
「最初からそうだったんだよ、僕達が子育てで目指さなきゃいけないことは。つないでいた
手を離してもひとりで歩けるようにすることだったね」(柴田まるみの父、10巻)
(僕はいつもここで泣きます。下の子もワイの手をつながなくなりつつあり…)
『二月の勝者』は中学受験に使えるか?名言集付きのまとめ
★『二月の勝者』まとめ★
君達が合格できたのは、「父親の経済力」。そして、「母親の狂気」。(1巻冒頭)
・リアルで面白い!
・中学受験を「塾産業」「受験生(小学校6年生)」「親」からうまく描いている
・中学受験を取り巻く各種状況がかなり正確に分かりやすくまとめられている
・中学受験の明暗、その他、全方位的に描かれている
『二月の勝者』1~11巻セット。
なお、この『二月の勝者』、受験生である小学生が読んでも良いのでしょうか?
大いに読むべきだと思います。それこそ、いい「社会勉強」になります。